こんばんは、岡田斗司夫ゼミです。今夜お送りするのは録画放送になります。 この4月からシステムが変わりまして、これから毎月最終日曜だけは、過去のニコ生ゼミや、もしくはいろんな講演、いろんなところで話したことの中から、あまりみんなが見たことのない映像というのを配信していこうと思っています。 今夜お送りするのは、士郎正宗さんの漫画を解説した『攻殻機動隊講座』の第4回と第5回。アニメ『ゴースト・イン・ザ・シェル』の原作となった漫画なんですけど、これを1ページ1コマごとに細かく解説していくという講座です。 今夜はいきなり第4回第5回から放送するんですけども、第1回から第3回はアーカイブで公開しています。 その第1から3回は、この単行本の中で、わずか7ページしかないプロローグをかなり細かく話しました。 今回やるのは、36ページある第2話「SUPER SPARTAN」という回です。 この「SUPER SPARTAN」という回は、『攻殻機動隊』のストーリーがようやっとわかってくる回。実は、この前の第1話というのは、単行本化された時に書き下ろしで付け加えられた特殊なエピソードなんですね。プロローグみたい……というか、サブタイトルも「プロローグ」っていうんですけども。読んでも読まなくても、内容的にそんなに変わりがないやつなんですね。 なので、今夜の第4回第5回で語る『攻殻機動隊』が、連載版の一番最初の回ということになります。 基本ストーリーとしては、“少佐”と呼ばれる謎の女の人がいて、部下と一緒にお花見をしている。すると、そこに荒牧部長という警視庁公安課の偉い人から連絡があって、ある事件への出動を要請される。 どうも、政府に関係ある“聖庶民救済センター”というふざけた名前がついてる施設があるんですけど。いわゆる、働けなくなった人とかニートの人たちを、大量に囲って、働けるように再教育する施設のはずなんですけども。そこに対して「非合法なことをしているんじゃないか?」とか「人権を無視した労働をやらせているんじゃないか?」という疑いが掛かった。なので、そこに突入しろというふうに言われるんですね。 しかし、少佐のチームは、荒巻からの依頼内容自体にも怪しいものを感じてしまう、というお話です。 この漫画が連載されたのが1989年。お話の舞台となるのは、人間の大半が、脳の中に通信機とか補助記憶装置みたいなものが埋め込まれていて、身体機能もかなり拡張されている“サイボーグ”になっているような時代。連載から40年後の2029年という、今から10年後の世界です。 今年は士郎正宗がこの漫画を描いてから、もう30年も経ってるんですね。30年後の今年は2019年です。つまり、30年前に描いた「40年後はこうなるであろう」というストーリーなんですね。そこら辺も「今から10年後にこういうふうな世界が来るかもしれない」と面白がって見て頂ければと思います。 まあね、流石に10年では無理かなと思うんですけど。20年後、30年後だったら、いまだにあり得る話ですね。僕、こんなに未来予測が古びてない漫画ってなかなかすごいと思います。 『攻殻機動隊』って、押井守さんの手によって劇場版アニメになっているし、押井さん以外にも、TVシリーズもあるし、ハリウッドで実写映画化までされてますよね。 そんなふうに、いっぱい映像化されてるんですけども、なぜかこの第2話「SUPER SPARTAN」だけは映像化されていないんですね。神山さんが作ったTVシリーズ版のシーズン2のラストの回、第26話で、一応、この冒頭のお花見のシーンに繋がるみたいな感じが出てくるんですけども。この「SUPER SPARTAN」のメインストーリーは一切映像化されてないんですよ。 これ、なぜかというと、僕が思うに「あまりにシンプルで面白いから」なんですね。 『攻殻機動隊』を映像化する人は、この映像美に引っ張られてしまって、すごく難解な話をやろうとしちゃうんですね。ところが、この第2話の「SUPER SPARTAN」というのは、シンプルに、刑事アクション、もしくはスパイアクションとしてものすごく面白い、『007』みたいな話なんですね。 なので、かえって映像化しにくい。映像化しようとしたら、もう本当に、士郎正宗の漫画そのままをやるしかないから。で、『攻殻機動隊』を映像化したがる人に限って、なぜか作家意識がものすごく強くて「原作をなんとか俺のものにしてやろう!」という人が多いんですね。 僕なんかは「高畑勲が『攻殻機動隊』をやったら、どんなに面白かったか」と思うんですけども(笑) まあまあ、それは言ってもせんないことですね。はいはい。来世で見たいとは思いますけども。 それほど圧倒的に面白いこの原作。ただ、そんな圧倒的な面白さというのが、なかなか伝わりにくいから、原作版は知名度が低いわけですね。なので、1コマずつ、1ページずつ解説してみました。 実は昔、『BSマンガ夜話』というNHKの番組で、僕はこの『攻殻機動隊』をかなり詳しく解説してるんですけども。今回は、それを数倍に進化させ、本当に1ページずつ、ずっとやって行きますので、そこらへんをお楽しみ頂ければと思います。 今夜は第4回、第5回を配信しますが、無料部分では第4回、有料部分で第5回を配信したいと思います。 なお、もうお気づきの通り、今、僕がここで喋っているのは生ではございません。イタリア旅行に行く前の録画ですので。 それでは、『攻殻機動隊』第4回と第5回、連載の第1話にあたる「SUPER SPARTAN」の解説を、お楽しみください。では、どうぞ。 今日、取り上げるのは、ようやっと『攻殻機動隊』の1ページ目が終わり、その次に、たった6ページの第1話が終わって、今回は第2話ですね。 「02 SUPER SPARTAN」というタイトルです。2029年4月10日を舞台にしたお話で、執筆されたのは1989年4月。 1989年というのは、第2回の講義でも言いました通り、日本がバブル経済の真っ最中というのかな? ちょうど転換点あたり。この夏くらいにバブルの崩壊が始まったから、この89年の12月だったかに「終わり」と言われるようになったので、世間では「まだまだ好景気が続く」と思われていたような時代です。そういう時代に描かれました。 この当時の未来像というのは、今年に再映画化が公開される『ブレードランナー』に代表されるような“サイバーパンク”……まあ、『ブレードランナー』というのは、誤解している人も多いと思うんですけども、実は、サイバーパンクではなく、ただ単に出てくるガジェットが、ちょっと時代掛かってたり、スタイリッシュであったりするだけなんですけど。 その点、この『攻殻機動隊』というのは、連載された時から、明らかにサイバーパンク、具体的にいうと「人間みたいな生体と機械との融合」というのを描こうとしていた作品ですね。 なので、この草薙素子という主人公が座っているカバーイラストでも、首の後ろの方にコードが繋がってますね。こういうのをSF漫画の中で意識的に描いた……まあ、“初めて”ではたぶんないんですけども。表紙とかで、わかるように描いた作品だと思います。 よく、「士郎正宗の作品というのは、女の子が素っ裸に近い格好をしていたり、お色気キャラが多い」というふうに見られることが多いんですけど、必ずしもそうでないということが、この第2話の表紙を見ればわかると思います。 なぜ、素子がこんなに薄着なのかというと、“ジャックイン”と言われる機械と接合するための面を広くとるために、仕方なくこういうふうに薄着をしているんですね。 もちろん、絵として編集部の方から「ちゃんと色気を出してくれ」という注文があったかもわかりませんけれども。実は、作者として描きたいのは、この目の強さと、人間が首の後ろからコードが伸びて機械に繋がっているという、この不思議さを出したい、と。 だから、実はこの絵で注目すべきところは、この草薙素子がこちら側をクッと横目で睨んでいるのと同時に、この“フチコマ”というロボットが、真正面からカメラの方を向いているところ。つまり「2つの目が睨んでる」んですね。これがこの今回のお話全体のテーマであると。 機械の上に人間が乗っている。しかも、ただ乗っているだけではなくて“繋がっている”。そういう世界を描こうとしているということです。 では、1ページ目。 これ、4月の話ですから、花見をしているシーンから始まります。 花見をしているシーンがあって、「仕事だ、少佐」という吹き出しがフチコマのコックピットから聞こえています。 この時のフチコマはバイクみたいなもんだと考えてください。なので、誰かのバイクに荒巻の映像が映って「仕事だ、少佐」と言う。 ところが、ここで少佐はフチコマから降りてお酒を飲んでますよね? なので「この情報は少佐の元にも何らかの形で伝わっている」というわけですね。いわば、「電脳で脳内に転送されている」というふうなことなんですけども。 まあ、その辺のことはあんまり気にしないで結構です。 今回、注目すべきキャラクターは、草薙素子という人と、次に“サル”と呼ばれている荒巻部長。そして“トグサ”と呼ばれる新入り。これは後で出てきます。この3人だけを見ていれば、どういうふうなお話かがわかります。 「仕事だ、少佐。南新居浜4区、水仙と合流、待機しろ」と。 “水仙”というのは何かというと、たぶん、政府のワゴン車みたいなやつでしょう。これも、後で出てきます。 「やなこった。へへーん」という少佐に対して、「貴様が要求していた予算は通したぞ。仕事しろ」と言う荒巻。 ここで少佐は酒を1口飲んで「フチコマ! 確認(インフォメーション)は!?」と言うと、フチコマというロボットが「Y.Yes SIR!」と答えるという流れです。 ここでわかるのは、まず、この部長という人は、少佐に命令できる立場ではない。なので、「仕事だ」と言われても「やなこった」と。 それに対して、取り引きとして「お前が要求していた予算は通したぞ」と言われる。この予算とは何なのかは、この回のラストで語られます。 ネタをどんどん明かすというか、みんなも、もう読んだという前提で話すんですけど。 結局、少佐がやりたかったのは何かというと。もう、この時代の世の中では、普通の法律とかでは裁けない、電脳犯罪、ネット犯罪とかが大きくなり過ぎていて、普通の警察組織とか軍ではどうにもならない。 なので、そういうことに関して、積極的に介入して、解決するような独立した団体。それも、警察組織とか公安の端っこにいて、上司の考えとか許可を常に伺わなけれいけないような首輪付きではない、ほんとうの意味で独立した組織というのが必要だ、と。 「そういう組織を作るにはこれくらいの予算が必要です」ということで、少佐は予算を上申していたんですね。 「貴様が要求していた予算は通したぞ、仕事しろ」という荒巻のセリフは、つまり「お前が俺の部下になるならないは関係なく、お前が要求している予算は通したんだから、お前はいよいよ国家・政府の一員となって、国家公務員として仕事をしろ!」ということを言ってるわけですね。 そう言われた少佐は、まず、それが本当かどうかを確認しようとしています。 ちょっと面倒くさい言い方をしてますけど、ここらへんをきちんと説明しておかないと、流れが全然わからなくなってくるんです。 さて、この「02 SUPER SPARTAN」というのは、雑誌に連載していた時の実質的な第1話だったんですね。 単行本化された時に、描き下ろしとして、この前のエピソードがいろいろ付いたんですけども、これが第1話だったので、作者としても、まだまだ手探りでサイバーパンク表現というのを模索しています。 「フチコマ、確認(インフォメーション)は!?」と少佐が聞くと、それとは別に、“バトー”という、彼女が一番信頼している部下が近づいてきて、合図をします。 この合図というのは何かというと「今ここで話すことを部長には一切聞かれたくない、知られたくないから、接続していいか?」というのを指で合図しているんですね。 それに対して、少佐は目線で「OK」と言っているので、バトーは首の後ろからケーブルを出して、彼女はうなじを開く。このうなじに有線ケーブルを差し込むんですね。 この“有線ケーブル同士の接続”というのは、まあ「無線のWi-Fiは盗聴されやすい」みたいなことをよくいいますけど、それと似たようなものですね。 この世界においても、こういった有線ケーブルで直に繋ぐことこそが最もセキュリティの高い通信方法だというおとがわかります。 ただ、後になって、この『攻殻機動隊』には、こんなシーン、一切出てきません。ということは、やっぱり作者自身も「ネットのセキュリティとは何か?」ということについて、この時には、まだそんなに考えてなかったんですね。 純粋に、ずっと無線で話しているところに、こういう表現を入れると、「ああ、一旦、他の人間には聞こえない裏のやり取りをするんだな」というのが絵としてわかりやすく成立するからやっているわけです。 では、次の段に行きます。 はい、これも後の『攻殻機動隊』ではあんまり出てこないシーンなんですけども。コードをうなじに差し込まれた少佐が「うン!」と声を上げます。 草薙素子:うン! バトー:いやらしい声だすな、気色悪い。 草薙素子:この前埋め込んだ聴覚素子(デバイス)が接触不良なのよ! で? バトー:公安部(ポリコ)のサル部長はキレモノのクソ野郎だ。取り引きに賛成は3、反対2、棄権1。 ということで、バトーが皆の意見を素子に知らせます。 これは何かというと、「要求した予算を通したとしても、公安部の部長というのは、あいつは頭がキレるやり手だ。だから、結局、俺達は彼に利用されることになる。たとえ自分達が望んでいた部隊の創設が出来たとしても、あの部長と取り引きするのはやめた方がいい」ということを、皆の意見として言ってるんですね。 さっき言った「ちょっと珍しい」というのは何かと言うと、こういう「身体に埋め込まられたデバイスが接触不良を起こしている」という表現は、ここから後の『攻殻機動隊』では、ほとんど出てこないんですね。初期の『攻殻機動隊』にのみ……というか、この第2話のみ、接触不良云々の話が出てきちゃうんです。 「この前埋め込んだ聴覚デバイスが接触不良だ」ということは、つまり「少佐とバトーとが有線で会話するための端子が接触不良を起こしている」と言ってるんですね。 これを見ると、本当にこのページ、丸々半分を使って「セキュリティとは何か?」というのをやってるんですね。 この『攻殻機動隊』の後のエピソード、第2話や第3話では「相手に嘘の現実を見せる」ということをする時に、この首の後ろの接触端子を使う場合が多いんです。 なので、ここで1回、それを見せるということをやってます。 さて、続くセリフ。 草薙素子:正式な特殊部隊の設立を内務大臣(ボス)に申請するには、公安部の“協力”も必要だわ。 バトー:奴は我々に独立より“専属”を望んでいる。 草薙素子:だったら、なおさら退けない事ぐらい奴も計算づくよ。 というようなことで、荒巻と取り引きをするかしないかで、部下とトップとの間で話をしているんですね。 あの、別に草薙素子というのは、部下の多数決によって意見を変えたりしない。ただ単に、意見として聞いているだけなんですよ。 草薙素子の考えとしては「正式に特殊部隊を作るんだったら、大臣の許可が降りて、予算が降りるだけは済まない。そうではなくて、公安部のキレモノのサル部長、この人の協力も必要だ。だから、協力するフリをしよう」と言っているわけです。 でも、彼女が信頼しているバトーは「いや、あいつは我々を独立部隊として泳がすつもりはない。専属して自分の下に組み込むつもりだ」と言って、反対している。 そんなやりとりがあります。 2人がこんなやりとりを交わしている間に、このフチコマというロボットは、ずっと、さっき命じられた予算が通ったどうかの確認作業をさせられているわけですね。 「国家審議委員会に予算通過のレポートあり。再度確認――」と。この「再度確認」というのは「2回確認した」という意味です。 フチコマがレポートを見つけました。「特殊部隊設立のための予算というのが、ちゃんと通過してます」ということをフチコマが確認したので、この瞬間、草薙素子はサル部長との取り引きに乗るわけですね。 「よし! 桜の24時間監視は中止。ヌードバーに連れてってやるぞ!」と。ここらへんはもう、単なる勢いで言ってるってやつです。別に、ヌードバーに行くわけでもなんでもないです。 ということで、フチコマに乗る。 前かがみに乗って、ここにスロットルがあって、サドルがあって、燃料タンクみたいなものがあるという。この乗り方でわかる通り、実はこのフチコマというのは、ここではバイクのアナロジーなんですね。 後のエピソードには、いろんなもののアナロジーとして出てくるんですけども、第1回の段階では、まだまだ、このフチコマっていうのは、作者自身が大好きなバイクのアナロジーとして出来ています。 こういうふうに、上半身をもたれ掛けるように乗って、背中の方に接触端子がぐっと近づいてくる。 さっきやった首筋の1箇所だけで繋がるのではなく、脊髄に到るところまで全部繋がる。 そんな「巨大なコンセントがフチコマの方から近づいてきて、草薙素子の首の後ろから脊髄の真ん中辺まで、いろんなところでガチャっと繋がる」というシーンがあります。 あんまりそれを細かく描くとグロくなるので、見せてないんですよね。 その後、蓋が閉まりつつあって、車輪が回って、ガーッと走り出す。「退屈で死ぬかと思った」というようなことを部下たちは言っています。 「暖機しておきゃよかったな」と。この「暖機」というのは、「エンジンを予め掛けておいて温める」ということなんですけど。そういうふうな部下たちのちょっとした軽口とかも出しながら、ようやっと動くシーンに行きます。 この漫画において、こういった“動くシーンが出てくるまでの会話”が割りと重要なんですね。 そこまでで、ほぼ設定説明をやってしまって、そこから先は走りながらの説明になるので。 ここから先は、ここまでの話と流れが違ってきます。ここまでは止まったフレームの中でのお互いの会話ですけども、ここから先は、動いている絵の中でのセリフのやり取りになります。 ということで、まだ日本には存在ない“新居浜”というところを走っているわけですね。 なぜ、こういう描き方をするのかというと。この風景、山みたいに見えるけれども、木が1本も生えてません。縁が削られたようになっているんですね。 実は、この『攻殻機動隊』というのは、10年か20年前に世界大戦があった後の世界なんですね。その世界大戦で、日本は核攻撃を受けるかなんかして、首都である東京がなくなってしまった。 その結果、長期的には、消滅してしまった東京の代わり福岡に首都を移転することになった。それまでの中間地点として、神戸の沖に人口の島を作って、そこを暫定的な首都にしている。その神戸あたりの話というのが、この『攻殻機動隊』です。 フチコマが走っているのは、当然、国道のような大きな道路なんですけども。 この端っこの方には、核兵器か、もしくは大型爆弾で、大きく削られた海岸線というのが見えています。 この辺も、なぜこういうシーンを入れているのかっていうのが、よくわからないんですね。でも、SF漫画やSF映画を見る時に、こういうふうに、木が生えていない山で、明らかに削られた跡があった場合は「何か大事故があったんだな」と読むようにしておくと、お話がすごくわかりやすくなります。 ということで、「全員、脳潜入(ブレインダイブ)用意!」というセリフが入ります。 さっきまでは止まっていた構図の中での会話だったんですけども、ここから先は、全員が、おそらく時速何十キロ何百キロという速度で移動しながらの会話になってくるので、アクションシーンぽいセリフになります。 草薙素子:全員、脳潜入(ブレインダイブ)用意! バトー:無線だと“枝”がつくぞ。(盗聴されるコト) 草薙素子:状況説明しておいて欲しいでしょ? というふうなことで、草薙素子は「状況説明するために私の脳内に皆で入ってこい」というふうに言ってるんですね。 これを、無線でやる。つまり「フチコマ同士の無線通信の中で脳に入ってこい」と言うんですけども。 それに対して、バトーは「俺がさっきやったみたいにワイヤーで繋いでやらないと、盗聴されるぞ?」と助言します。 でも、まあ「それよりも大事なのは、状況説明でしょ?」ということで、草薙素子はそれをやります。 後のエピソードには、こんなシーンは出てきません。ここから先の話で、いちいち「情報共有のためにお互いの心の中に潜入して~」とか、「無線だと枝がつく~」とか、そういう話は出てこないんですね。 これも、実質上の第1話だからこその、まだ混乱しているやりとりだと思ってください。 「枝祓いに超天才(ウィザード)電脳技師の攻性防壁を使う。ハッカー殺しのハードな奴よ」ということで、つまり「セキュリティはあるから大丈夫よ」というふうに少佐は言っています。 「チリチリする辺がゴーストライン。それ以上は潜るな」ということで、バトー達は「ブクブクブク」と言いながら心の中に潜って行きます。 ここで“ゴーストライン”という言い方が出てくるんですけど、これは後で解説します。 ここでは、とりあえず、さっきまでの静止している時のサル部長に対するやり取りの説明から、動き出してからのアクションに入ってからの短い説明の積み重ねに移ったということで、明らかにお話のテンポが変わってきたことをよく読んでください。 ということで、この漫画ではわりと珍しい「脳内がどうなっているのか?」という描写がザーッと出てきます。 ここら辺がサル部長が言っていたセリフですね。「国際的対テロ機関の設立予算を出すまで仕事せんだとー!?」とか、「予算は通した!」とか、そういうふうな記憶が見えます。ここから、これまでこの部長さんとかなり言い合いがあったんだなということがわかります。 他にも、少佐本人にしてみれば、みんなに読まれたくない、自分がもっと若くて純真だった頃の笑顔というところまで見えてたりするんですね。 みんなは、こういう記憶の中から必要な情報を見ているんですけども。 ここまでは前回、商務大臣だったか商務次官だったか、そういう人と殺し合いをした時のSPとか、荒巻部長とのやりとり。 ここまでが少佐にとって“読ませていい部分”で、ここから左の部分というのは、いわゆるゴーストラインという、彼女固有の魂の部分なので、読ませたくない部分ですね。 そこらへんのギリギリまでみんなが潜ってきている。 「ノイズが多いな、お前の脳は」という言葉に対して、「生理なんだよ」と言い返す少佐。 「少佐、義手が痛みますね」、「なんです、このニガいの。鎮痛剤ですか?」ということで、生理用の鎮痛剤を飲んでることを、部下にからかわれたりすると。 「義手が痛みますね」というセリフからもわかる通り、みんなが少佐・草薙素子の心の中に潜ってくると、彼女の義手の部分が痛んでいること、「今の彼女の実際の肉体である義手の合いが悪い」ということまで知られてしまうわけですね。 ということで、少佐の「さあ、情報は仕入れただろ。2秒で出ていかないと脳細胞焼くわよ。そろいも揃ってゴースト近くまで潜って来やがって、くそッ。これだからデリカシーのない野郎共を脳に入れるのは嫌なんだ」というセリフ。 そのバックでは、都市が見えてきて、いよいよゴールが近いことがわかります。 これがブレインダイブのシーンです。 はい、この大きいワゴン車が、たぶん「水仙と合流しろ」と言われた「水仙」です。新居浜4区に着きました。 「新居浜4区」と書かれた看板のすぐ近くに“聖庶民救済センター”というのがあります。 「現在、公安部は聖庶民救済センターを完全監視下においています」というふうなことで、やりとりが始まります。 草薙素子達は、このドライバーの後ろの席にいるわけですね。カーテンを開けて、運転席を確認する描写があります。 このカーテンの後ろ……まあ「大きいステップバンの後ろ」っていうんですかね。トラックの後ろみたいな部分に、機械がいっぱい入っている。 よくアメリカの警察モノに出てくる対テロ組織で、こんなふうに「トラックみたいな車の後ろのコンテナの中に機材がいっぱい並んでて、その中にモニターがあって、人間がいろいろ入っているやつ」って見ますよね。ああいうところだと思ってください。 そこに、リーダーの草薙素子と、彼女が最も信頼しているバトーというナンバー2が居て、新しく出てきた女の子とやりとりをしています。 「聖庶民救済センター?」と、ここで今回、ようやっと作戦を知らされます。 「公安部は聖庶民救済センターを完全監視下においてます」といった通り、今回は、この聖庶民救済センターを襲撃するわけです。 それは何かというと、「福祉施設です、少佐殿。戦災孤児をひきとって、生活、学習、職場を提供する所です」と女の子は説明します。 この「戦災孤児をひきとって」という表現からは、やっぱり「数年前に戦争が終わったばっかりだ」ということがわかりますね。 この『攻殻機動隊』の世界の中の日本では、戦災孤児というのが世の中にブワーッと溢れていて、その子供達を集めて生活させたり、学習させたり、職場を提供したりしている、と。 では、なんでそんな施設を監視下に置いているのか? 草薙素子:じゃあ私らは必要ないな、バイバイ。 オペレーター:洗脳装置(ゴーストコントローラー)があるんです、少佐殿。 なんで草薙素子は、ここで「じゃあ私らは必要ないな、バイバイ」と言ったのかというと。草薙素子が設立の申請をしていて予算の承認をもらったのは“独立組織”なんですね。 つまり、彼らがやることは、警察でもなければ保護でもなんでもない。そうではなくて「この世の中には“悪”が行われているところがある。その悪とは、通常の軍とか警察とか公安とかでは裁けない。そういう所に積極的に介入できる組織を作った」はずだった。 なのに、なぜかそんな福祉施設を監視においているということで、「ちょっと待て」と、ここで草薙素子は誤解するわけですね。「そういう施設の監視をさせられるんだったら、それは私らの仕事じゃない」と。だから「バイバイ」と帰ろうとする。 しかし、この女の子は「洗脳装置があるんです」と言います。 この「洗脳装置」にもルビが振ってあります。「ゴーストコントローラー」と言っているんですね。 それを聞いた少佐は「アナクロォ」と言って驚きます。 オペレーター:この救済センターは社会に出す人材のレンジが広い事で知られています。 草薙素子:政治家、評論家、犯罪者、etc.etc……。似たようなもんだ。 荒巻:公安部はそこを「人間工場」と呼んでおる。なければ困るし、雑菌が入ったら社会問題だ。 毒づく草薙素子に対して、荒巻部長はここではモニター上から指示をしています。 オペレーター:研究所の電脳からハックされたHC・25設計図。証拠がないので踏み込めないんです。 要するに、「洗脳装置がある。なんで戦災孤児を教育する施設に洗脳装置が必要なんだ?」という疑いが持たれてるわけですね。 もしここで戦災孤児たちに教育するというのを建前にして、洗脳行為をしていたとしたら……洗脳というのは、この世界の中でも、どうも違法らしいんですね。 そういうことが行われてるんだったらば、他の警察組織とかには手の出し用がないということなので、サル部長は「攻殻機動隊の仕事として、ここに入ってくれ」と言うわけです。 ところが、この聖庶民救済センターというのは“政府の組織”なんですね。 つまり「政府の組織を政府の人間が襲撃する」という、ちょっとリスキーなことをしなければいけないということで、ここから先のやりとりに続きます。 オペレーター:証拠がないので踏み込めないんです。 草薙素子:「盗め」?「殺せ」? オペレーター:とんでもない! つまり、ここで少佐は「じゃあ、私達は何をすればいいの? その洗脳装置を盗んじゃえばいいの? それとも、こんなことをやっている悪いヤツを殺せばいいの?」と言う。 それに対してこの女の子は「とんでもない!」と答えます。 面倒くさいんですけども、ここで、草薙素子が身につけているウェストポーチが「ピピピ」と言うんです。 これ、次のページでも説明がないんですよ。 はい、岡田斗司夫です。前半を見てくれてありがとうございます。 ちょっとだけ補足説明をします。16分50秒辺りを、後でもう一度見てください。 フチコマが高速道路を走るシーンで、上空から見下ろした、水平線も見えてる、海も見える構図になってるんですけども。海岸から道路まで広がっている山が、全て海側に丸く削り捉えてるんですね。 これ、なんでこういう地形になっているのかというと、かつて、あの辺りが核攻撃なり、強力な爆弾で、山が削り取られて海になってしまっているんです。 この海岸線というのは、もともと海があったところではなくて、山が削り取られて、そこに海が来て海岸線になっているんだというのが、爆弾で削り取られたような特徴的な地形から見えてくるんですね。 攻殻機動隊の世界というのは、その前に士郎正宗が描いた『アップルシード』の世界、つまり「第3次世界大戦で核戦争が世界中で起こった」という後の話なんです。 そういう設定を、さり気なく、こういった風景で見せている。こういうところが1つの見所だと思います。 『攻殻機動隊講座』第4回はここまでです。 この「素子の腰でピピピと鳴るウェストポーチの正体は何なのか?」という続きは、有料版の第5回で解説しようと思います。 来週は『アベンジャーズ』について少し語ろうと思います。まあ、特集という程の語り方ではなくて、ネタバレギリギリで、ちょっと5分くらい話してみようかなと思います。 あとは、来週5月5日は、久しぶりにお便りを読んで答えていきたいとも思うので。今、画面の上か下かに出てると思うんですけど、「番組へのお便り受付」というリンクがありますので、ここからお便りを投稿してみてください。岡田斗司夫のブロマガのトップページにもリンクがありますので、そこからでも大丈夫です。 では、有料に切り替えます。 有料放送の第5回が終わった後にも、また少し解説します。 あと、プレミアム会員の皆さんは、今日も放課後放送が、録画になりますけど、一応、少しだけありますので、最後まで見てください。ではでは。